「大したことじゃないですよ。多分あれを渡したいんだと思います」


知ってか知らずか、千秋は瀬々の疑問に答える。


「あれ?」

「お土産ですよ。俺もさっき貰ったんですけど、娘さんと旅行に行ってきたみたいで」

「へぇ。娘さんいたんですね」

「みたいです。聞いた話じゃ瀬々くんと同じ年頃だそうで」

「まじッスか」


あの若々しい外見で子供がいることにも意外だが、更に自分とそう変わらない年頃となると、驚きを通り越して想像し難い。


「それより遅くなってすみません。こちらから時間を指定してたのに」

「大丈夫ッスよ。そもそも無理を言ったのは俺の方なんスから」


千秋が勤めている一般対策部は、主に異能者と諍いが生じて被害を被った一般人を擁護し、問題を解決する部署である。
近年人手不足でほぼ無休で働く多忙の中、昨日の今日で、わざわざ時間を作ってくれている。
それだけでも十分有難いことであるし、予定に多少のズレが生じても構わないと瀬々は思っていた。


「そう言って頂けると助かります」

「大げさッスよ。ホントそんな待ってないですし、あかねっちもいましたから」

「姫と知り合いなんですか?」

「友達でお得意様なんスよ」

「あぁ、それで」


千秋は納得したように相槌を返す。


「ところで今日は、どういったご用件で?なんとなく察しはついてますけど」

「ですよね」


千秋は持ち前の明るさと社交性から交友関係も広く、それゆえに情報通でもある。
特に七華についてはその出自もあってか情報屋以上に詳しく、瀬々が知る限り、彼の右に出る者はいない。


「桐島陽一について教えて欲しいんです。知ってますよね?」

「もちろん。理由は?」

「昨日うちの店に来たんです。藍猫は情報屋の中でも一流で広く知られてはいるけど、七華が来るような場所じゃないし、そもそも滅多にお目にかかれないですから。だから気になって」


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