突然声を掛けられ、あかねは目を瞬かせて頷く。
「貴女の話は多方面からよく聞きます。これから大変な時期だと思いますが、お兄さんと一緒に陰ながら応援しています。困ったことがあれば気軽にいらして下さいね」
「こちらこそ、お心遣い感謝致します」
里歌の言葉に、あかねは柔らかな笑みを浮かべて応える。
「それから……軟弱でどうしようもない愚弟ですが、これからも仲良くして頂けると助かります」
「ぐ、愚弟?」
戸惑っているあかねを横目に、瀬々はそっと耳元に口を寄せて小声で呟く。
「昶っちのことッスよ」
「あ、昶の……ええっ!?」
友人の名前に納得し掛けると同時に、声を響かせてあかねは驚く。
その様子に里歌はただ笑みを向ける。
「では橘の様子を見てきますので、お待ち下さい」
里歌は軽く頭を下げて、カツカツとヒールの音を立てながら遠退いていく。
姿が見えなくなったところで、あかねは口を開いた。
「びっくりした〜。あの人が昶のお姉さんだなんて」
「俺もびっくりッスよ。あかねっちが知らなかったことに」
「だって会ったことなかったし」
「いや、香住って聞いた時点でフツーに気付くっしょ」
「いやいや、香住って名字が日本にどれだけいると思ってーーーーあ」
不意に言葉が途切れたと思うと、あかねは不自然に声を漏らす。
彼女の視線は既に自分になく、辿るように視線の先を見れば、そこには見知った男の姿があった。
「こんにちは、桜空さん。それから瀬々も」
「お久しぶりッス。相変わらず若いッスね」
その言葉に男ーー南雲透(ナグモ トオル)は微笑む。
ミルクティーブラウンのやや癖のある髪に、穏やかで落ち着きを払った雰囲気を纏っているものの、年齢より幾分も若くみえる整った顔立ち。
いかにも女性受けしそうな容貌だが、こう見えて調停局の中でもチームと関わり深いチーム調停部で、長年部長を務めている人物である。
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