「依頼?」
「んー、その事前調査的な?」
瀬々は曖昧な言葉を返す。
ーーそういやあかねっちは、
ーー御三家の出身だったッスね。
あかねの生家は、桐島家と同じく異能者の始祖である古代種の血を引く由緒ある家系の一つであり、その中でも最上位の桜空家である。
もしかしたら桐島陽一について何か知っているかもしれないと、瀬々は僅かながら期待を寄せて問い掛ける。
「あかねっち」
「んー?」
「ちょいとお尋ねしたいんスけど、桐島陽一って知ってやすか?」
「知ってるよ。同中だったし」
「マジすか」
思いのほかすんなり返ってきた言葉は、予想から大分外れたものだった。
「どんな感じの人ッスか?」
「んー……あっちは三年だったし、話したのは数える程度だったからなぁ。詳しくは分かんないけど、親切な人だったよ。それに年上だから余計にかもだけど、しっかりしてたかな。生徒会長やってたし。あと見た目が童話からそのまま出て来た王子様みたいで、女子にすっごい人気があったよ」
あかねの話を聞いて、まさに模範的な優等生という印象を受ける。
事務所に来たときの振る舞いも頷ける。
ーー人物像は一応掴めたけど
ーーめぼしい情報はないッスね。
「彼女とかっていました?」
「さぁそこまでは……あ、あと凄い家族思いらしいよ」
「へー?」
「まぁそう聞く割には、学校行事とかで一度も見たことないけどね」
「…ちなみに桐島家について知ってます?」
引き続き尋ねるが、あかねは首を横に振った。
「桐島家についてはよく知らないの。前に兄貴に聞いたけど、元々うちの家とはそんなに接点ないみたい」
「あ、そうなんスか」
「らしいよ。でも杜若とは交流が深いみたいだから、気になるなら調べてみたら?」
ーー杜若。桜空や桐島と同じ七華の一つ。
ーー七華の中じゃ桐島同様、
ーーそこまで地位は高くなかったような。
「私が知ってるのはこんなもんかな。大した情報じゃなくてごめんね」
「そんなことないッス。知らないことが多かったんで助かりやした」
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