「二人ともどうしたんスか?元気ないッスね」


瀬々が声を掛けると、智昭とクロードは揃って顔を上げた。


「瀬々ちゃんこそどうしたの。顔黒いよ」

「テオにやられたんスよ。メツブシボールとやらで。先輩こそ、やけに濡れてやすけど」

「俺もテオちゃんに一杯食わされたのよ。出会い頭に割れる水風船をね」

「いいじゃないスか。水も滴るいい男ッスよ。はいピース」


やや疲れた様子の智昭を労わりながら、携帯を手に取り写真を撮る。

ーーあらまイケメン。
ーー面白そうだから、あの人に送っちゃお。

画面を切り替えて、新規メールを作成して画像を添付する。


「全く呑気なものだな」


終始無言のまま智昭の隣にいたクロードが、瀬々を見上げながら恨めしそうに呟く。


「あははぁ……すいやせん。クロードさんも被害にあったって聞いたんスけど、見た感じ何もされてないッスよね」


むしろ未夜同様、普段と何ら変わりない。
それとも自分や智昭のように、目に見える被害に遭っていないだけなのだろうか。
するとクロードは片目を閉じ、静かに溜息を吐いた。


「これを見ろ」

「…眼鏡?」


大層不機嫌な顔で差し出されたのは、クロードが愛用したいる眼鏡だった。
壊れているわけでも歪んでいるわけでもなかったが、よく見るとレンズの端に僅かに傷が付いていた。


「これでは使い物にならない」

「大した傷じゃないと思いますけど」

「なんだと?」


クロードは途端に目を吊り上げる。


「大した傷ではないと?よく見てみろ。5㎜以上の傷だぞ。気になって仕事に手がつかなくなる」

「はぁ……なら外せばいいじゃないッスか。どうせ伊達っしょ?」

「これは度入りだ」


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