「とにかくなんもねーよ!あっても悠なんかに教えねー!バーカ!」
テオは捨て台詞のような暴言を吐き、目の前にいた瀬々を押し退けて外へと走っていった。
「なんだあれ…」
その背中を見送りながら、不意に呟く。
「ま、いっか。ねねさん曰く、反抗期真っ最中みたいだし」
それ以上は気にすることもなく、事務所に向かう。
「おはようございます」
「おはよう……瀬々くん!?」
「未夜さん」
「ど、どうしたの!?大丈夫!?」
「へ、何が……あ」
慌てる未夜に対し、瀬々は苦笑する。
「さっきテオっちにやられたんスよ。確かメツブシ?ボールだったかな。昨日発売されたらしいッスよ」
悪戯好きな同僚に思わず溜息が出そうになるが、それより先に未夜が溜息を吐いた。
「もう……あの子ったら、またそんなことして」
「またって、未夜さんも何かされたんスか?」
未夜の言葉に彼女を上から下まで見回すが、普段と何ら変わりないように見える。
そんな瀬々の様子をみて、未夜は困ったような笑みを浮かべる。
「私は何もされてないんだけど、智昭さんとクロードさんが少し…」
「…なるほどね」
日頃の悪戯の被害者である自分だけでは飽き足らないようで、既に上司にも飛び火していたようだ。
ーー智兄はともかく
ーークロードさんは結構怒ってそうだな。
「先輩…智昭さんは?」
「休憩室にいると思う」
「ちょっと行ってくるッス」
それだけ言うと、瀬々はそのまま未夜た別れて真っ直ぐ休憩室へと向かう。
角を曲がって端にあるドアを開けると、タオルを頭に掛けて俯いている智昭と、その隣には眼鏡をじっと見ているクロードの姿があった。
自分よりも一回り以上年上である二人なのだが、その姿はどことなく疲れていて頼りなく、はっきり言えば情けなかった。
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