戸松 某所


「まいただー」


夜空が輝き、辺りが静けさに包まれた頃。
灯りが妙な存在感を示す、人気のないマンションのとある上階。
瀬々は本日の仕事を終え、鍵を開けて我が家へ辿り着いた。
ゆるやか閉まっていく玄関を背後で感じながら、やや雑に靴を脱いで、早々に廊下で俯せになって倒れた。


「疲れた…おやすみ」

「こらこら。寝るならソファで寝なさい」


床に寝そべる瀬々に続いて、智昭も足を踏み入れる。


「動きたくない……それに俺の家だし、どこに寝たって」

「いや元々俺の家だからね。そして家賃払ってるのも俺」

「うー」

「ほら、ここだと体痛めるから。起きて」


自身も仕事終わりで疲れているはずなのに、そんな素振りを一切見せずに優しく諭す智昭。
しかし瀬々は起き上がることもせず、駄々をこねる。


「無理ッス。体に力が入らないぃ……おててプリーズ」

「はいはい」


寝そべったまま腕を伸ばす瀬々に、智昭は溜め息を吐きながらも手首を掴んで起こす。
そしてそのまま流れ作業のように立ち上がった瀬々を、リビングにあるソファまで連れて行く。


「ふぅ…」


ソファを目の前にして手から力が抜け、鞄を落とすように置いて早々横になる瀬々。
智昭は荷物を適当に置くと、手を洗って冷蔵庫を開ける。


「ご飯食べる?」

「いらないッス」

「シャワーは?」


冷蔵庫の中身を物色しながら声を掛けつつ、買い溜めしている缶ビールを取り出す。
瀬々の様子を見ながら、智昭は隣にある一人用のソファに座った。


「ビールだ。飲みたい」

「だーめ。未成年でしょ。で、シャワー浴びないの?」

「明日入るッス。今日はもう気力ない」


横になったまま、そう言いながら目を瞑る瀬々。


「なら明日の予定を確認してから寝なさい」

「…へーい」


力なく返事をして、起き上がることなく鞄に手を伸ばして手帳を取り出す。
重い瞼を上げて手帳を開くと、ページを捲って明日の日程に目を通した。


「明日は……んー…午前十時に出勤して……午後十二時から外で散策と言う名の情報収集ッスね。智兄は?」

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