藍猫 休憩所
「はぁ~……気にするくらいなら、あんな事言わなきゃいいのに」
控えめに機嫌を伺う智昭の中途半端な態度に、瀬々は呆れつつ独りでに毒吐く。
自分が引き受けることに納得してはいないものの、上司である彼の判断は間違ってはいない。
部下に仕事を任せるのは至極当然の事であるし、任されたら拒否権なんてあってないようなものだ。
加えて経験上、智昭があのように任せる時は、何かしらの意図が隠されていることがほとんどである。
それが果たして自分のためであるかは分からないが、瀬々にとってはどんなものより難解かつ好奇心を煽る課題のようなものではあった。
とはいえ、先程のように相手の態度や些細な変化に目が行き過ぎて、気遣い過ぎる性格には、軽い苛立ちを覚える。
――もっとフツーに
――堂々としてりゃいいのに。
――けどまぁ見てて面白いし、
――しばらくあのままにしとこ。
――ざまぁ見やがれッス。
含み笑いをしながら休憩室に入ると、見慣れた後ろ姿が目に映り、瀬々はそっと近寄って声を掛ける。
「お疲れ様ッス」
「お疲れ……っ!せ、瀬々くん……きゃっ!」
「ちょっ…!大丈夫ッスか?」
驚いた反動で椅子から落ちそうになるのを、瀬々は咄嗟に腕をつかんで阻止する。
「あ、ありがとう」
掴まれた腕を気にしながら、頬を朱くする少女――栗井未夜(クリイ ミヤ)は俯きながらも感謝を述べる。
彼女は瀬々の二つ年上の先輩であり、同僚である。
「驚かせちゃってすいやせん。隣いいッスか?」
「う、うん……どうぞ」
了承を得たのを確認して、瀬々は未夜の隣に腰掛ける。
しかしどこか隔たりがあるように、二人の間には一定の距離が保たれていた。
「確か今日は……情報収集でしたっけ?」
「そうなの。クロードさんと一緒にね」
「うげ。じゃあ結構小言が多かったんじゃないッスか。クロードさんって姑か!ってくらいうるさいし」
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