「それ言っちゃう?先月四十件も掛け持ちして、全部遂行した瀬々ちゃんが」
「それは……偶然というか、簡単な仕事ばっかだったんで」
痛い所を突かれつつも、瀬々はなんとか反論し、言葉を続ける。
「とにかく絶対嫌ッスから。手掛かりが写真一枚の依頼なんて。しかも人探しなんて地味でめんどい上に、スリルもくそもない」
「出たね本音。まぁとにかく瀬々ちゃんにやってもらいます。ちなみにこれは上司命令なので、拒否権ありません」
「はぁ!?何言っ――」
「それに瀬々ちゃん」
反論しようとすると、智昭が更に話を続ける。
「今月も最下位ならクビ……なんだよね?」
「ぐっ……それは」
「もしこの仕事引き受けてくれたら、今月の成績も最下位でも俺がなんとかしてあげなくもないよ」
「…………」
尚も食い下がる智昭に、是が非でもこの依頼を自分に任せたいのだと分かる。
だがその動機は?意図は?
それらを探るように静かに智昭を捉える。
ふと入口の方から音がした。
「ただいま戻りました……どうかしたんですか?二人とも」
音の正体は同僚だった。
どうやら依頼から帰ってきたらしい。
「ああ、未夜ちゃん。おかえり。依頼の方はどう?」
「はい、今のところは順調です。依頼人の意向も微調整で済むかと」
「それは良かった。社長なら奥にいるよ」
「ありがとうございます」
徐々に遠退く足音を耳にしながら、智昭は再度向き直る。
「で、どうする?瀬々ちゃん」
「……分かりやした」
間を置いて呟かれた言葉。
智昭は口元に笑みを浮かべる。
「仕方ないんで、俺が担当します。だからその言葉、絶対忘れないで下さいね」
「分かってますよっと」
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