事務所
依頼を引き受け、次回の予約を済ませると、洋子達は安心した面持ちで帰っていった。
一方で瀬々と智昭は本来の業務に戻り、既に請け負っている依頼をこなす。
「俺てっきり桐島の坊ちゃんの依頼かと思ったんスけどね。残念。これ、山口さんの詳細」
「どうも。まぁそういうこともありますよっと。でも報酬は彼が出すみたいだから、いいんじゃない。竹内さんの、ファイルに戻しといて」
「はいよっと。でもそれってやっぱ訳ありって事ッスよね。友達の依頼なのに対価は自分が払うって。もしかして彼女とかッスかね?西島さんからの評価転送しまーす」
「あ、ねねさんの宛先も追加しといて。んーそんな感じはしなかったけどね。もしかしたら、彼にも関係ある依頼なのかも知れないよ」
「追加しやしたー。ふーん。ま、どっちにしろ訳ありには変わりないッスね。断れば良かったのに」
情報屋は元々リスクを担う職業ではある。
情報の入手には、人から伝え聞いた噂を元に調査したり、独自で作った人脈を頼りにしたり、時には張り込みや潜入したりと様々である。
ようは自身の能力全てを使い、更には体を張るのだ。
しかしだからと言って、得体の知れない依頼を受け付けることはない。
それは自身の安全の為でもあるが、藍猫の名に傷を付けてしまう危惧も含んでいる。
ゆえに得体の知れないとまで言い切れなくても、少しでも不透明さを感じられた依頼も同じである。
幸いなことに藍猫は、社員の自由性を方針として掲げているので、依頼の引受を個人の判断で任せられている為、断ることは容易である。
「俺もそう思ったんだけどね。あんな風に頼まれると断りづらいんだよ」
「先輩ああいうのに弱いッスもんね。もうあなたしかいないのッ!的な。アーネストさん言ってたッスよ。智昭は優しいから丸め込みやすいって。さぞこき使われてたんでしょうね」
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