智昭は再び思案し、沈黙する。
徐々に気まずくなる雰囲気を上げようと、今度は瀬々が口を開いた。
「俺からも聞きたいんスけど、花村さんはその人を調べてどうしたいんですか?」
「えっ……どうしてそんなこと…」
「一応、相手の方にもプライバシーがありやすし、こちらもリスクを担うわけですから、せめて理由くらいは聞いておこうと思いまして」
「……その人に会いたいんです。会って……話がしたくて」
「…そうッスか。まぁ理由なんて人それぞれッスよね。でも俺から言わせてもらえば――」
「瀬々ちゃん」
智昭から咎めるような声色で名前を呼ばれ、瀬々は口を閉ざす。
――すいませんね。
――でも俺の思ってること
――間違ってないッスよ。
――条件といい、態度といい
――不自然な点が目立ちます。
――人捜しなら俺らじゃなくてもいいはず。
――それをわざわざ桐島の坊ちゃんを連れて
――ここに来たんス。訳アリ確定です。
――断った方がいいと思いやす。
――どうせ今も能力使ってるなら
――分かってるんでしょ……先輩。
心の内で話し掛けながら、瀬々は智昭を見やる。
智昭は目線を合わすことはしないものの、合図とでも言わんばかりに軽い溜め息を零した。
すると前から消え入りそうなか細い声が聞こえた。
「あの……私、どうしてもその人に会って、聞きたいことがあるんです。嘘じゃないです。だから……」
訴えかけようとするも、言葉は最後まで続くことなく途切れ、洋子は俯く。
その様子をずっと見つめていると、今まで沈黙を貫いていた陽一が見かねて口を開いた。
「俺からもお願いします。頼めるのはここしかないんです。対価なら、そちらが望むものをいくらでもお支払いしますから」
真剣な眼差しで陽一が断言すれば、瀬々は目を細める。
――随分大きく出たもんだ。
――でもそれはある意味正解か。
「――分かりました」
隣から声が聞こえ、瀬々は口元に笑みを浮かべる。
「明後日にまたこちらへおいで頂けますか?それまでに正式な担当を決めておきますので。その時に詳しく話しましょう」
智昭の言葉に、洋子は嬉しそうな顔で頷く。
そしてまたも小さな声で、ありがとうございます。と呟いた。
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