「何も自分を責めることないのに」
「だから読まないで下さいッス。その能力は俺以外のヤツに使って下さい」
「瀬々ちゃんが正直になったらね」
飄々とした態度でそう告げられ、瀬々は溜め息を軽く吐く。
「さてお客様も待ってることだし、そろそろ行きますか」
「はいッス」
上司である智昭に付き従う形で個室に戻ると、陽一はすぐに反応して姿勢を正した。
それに気付いた智昭は、早々に紹介を済ませて席に座る。
後に続いて瀬々も座ると、視界にふと正面に座っている洋子が映る。
体を強ばらせ、相変わらず緊張と不安が混じった表情をしていた。
「改めまして、本日担当させて頂きます弥三郎と申します。宜しくお願い致します」
「こちらこそ。予約も取らず、押し掛けてすみません」
「構いませんよ。うちは予約制ではありませんので」
柔らかな声色でそう言う智昭を、隣に座っている瀬々はさり気なく横目で見遣る。
先程のような人の反応を楽しんでいるかのような意地の悪い笑みではなく、日の打ち所がない爽やかな笑顔で対応している。
これがいわゆる営業スマイルというものだが、瀬々からしてみれば気味が悪いだけだった。
「早速ですが、本日はどのようなご用件でいらっしゃいますでしょうか?」
智昭が尋ねると、陽一は洋子に目配せをする。
それに気付くと、洋子は慌てながらも鞄から何かを取り出し始めた。
「この人について調べて欲しくて…」
差し出されたのは一枚の写真。
写っていたのは二十代くらいの金髪の女性であった。
赤ん坊を抱きかかえながら嬉しそうに微笑んでいる。
「美人さんッスね。この方の名前は?」
「知らない」
「え?」
「名前知らない。どこにいるかも……だから調べて欲しいの」
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