藍猫 受付




「店の人、奥に行っちゃった……」


微かだが、そう呟く少女の声が聞こえた。


「準備してるんだよ。すぐ来る」

「……」


不安な表情を浮かべる少女に、少年は少し屈んで目線を合わせる。


「大丈夫だよ。依頼しにきたって言っただけだし、特に怪しまれてなかったから」

「……」

「もし何かあっても、洋子の事は絶対俺が守るから…ね」


その言葉に不安げな表情を浮かべていた少女――洋子(ヨウコ)は、少しだけ笑みを浮かべ、長い黒髪を揺らしながら静かに頷いた。
それを見て少年もまた優しく笑いかける。


「お客さまー」


やや間延びした言葉に顔を上げれば、受付から出てきたのは、灰色髪の少年だった。
年は同じか、少し下くらいだろうか。
気怠そうな雰囲気を放ちながらも、端正な顔立ちで笑みを浮かべている。


「奥のお部屋へご案内しますんで、どうぞこちらへ」



連れられるように少年の後に続けば、突き当たって左にあるドアを開き、部屋に通される。
日当たりが良く、簡素だが上品な個室だった。
奥のソファに座るように促されると、少年は洋子と共に腰掛けた。


「担当の者が来るまで少々お待ち下さい。ちなみにお飲み物はいかが致します?一応、お茶やジュースなど色々とお出しできますけど」

「…お茶で」

「そちらの方は?」

「お、同じの」

「かしこまりました」


少年は冷蔵庫からペットボトルを二つ取り出し、ソファに座っている二人に手渡した。


「ありがとう」

「いえ。あ、まだ自己紹介してませんでしたね」


思い出したようにポケットの中に手を入れ、ケースを取り出す。


「瀬々と申します。以後お見知りおきを」


瀬々と名乗る少年は、両手を添えて名刺を差し出した。
名刺を見ると、藍猫新入社員・瀬々悠と書かれていた。


「社員だったんだ。意外」


受け取った名刺を見ながら呟くと、瀬々はただ笑みを零す。


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