落ち込む瀬々を見つめながら、智昭は疑問を感じていた。
藍猫の方針上、依頼人の評価が第一と見なされる為、瀬々の評価は低いが、情報屋としての能力や姿勢は藍猫に勤めている誰よりも優れている逸材だ。
そんな人材を社長が自ずと手放すことは考えられない。
恐らく瀬々の為に、解雇などと追い詰めるような発言をしたのだろうが、この落胆ぶりからして逆効果だったと言わざる負えない。


「頑張ろうとか今の俺には重い。重くて苦しいッス」

「けど瀬々ちゃんが辞めたら困るよ。いつも助けてもらってるし、俺がやっとの思いで見つけた後任なのに」


藍猫は社長と副社長を除き、社員は正規社員三名と正規社員候補三名の原則六名であり、原則としてそれ以上もそれ以下も認められない。
中でも正規社員は、藍猫創立時社員であった初代の名前を襲名するという伝統がある。
そして正規社員候補は、いずれは正規社員となる謂わば次世代を継ぐ大切な後任なのである。
現在、正規社員である智昭は四代目・弥三郎を襲名をしていて、瀬々は正規社員候補にして直属の部下であり、つまり彼の後任なのである。


「いいんスよ。五代目・弥三郎の座なんて元々どうでも良かったし。というか弥三郎ってネット検索すると、最初に出てくるのうどん屋なんスよ。うどん屋の名前を襲名とかダサいッス」

「落ち込んでても、俺を前にしてそう言える元気はあんのね」


智昭の言葉を流しながら、デスクに突っ伏したままポップコーンを口に頬張る瀬々。


「はぁ……俺っちのハートはもはやブロークン。あー仕事なんてどうでも良くなってきたー。というか息をするのも面倒くさい。あー」

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