『あーあ、つまんないねぇ』
視界に入った女の姿に千歳は激しい嘔吐感に襲われる。
それでも顔を歪めてなんとか耐えていると。
女が気味の悪い微笑で小首を傾げて見せる。嗚呼、異常だ、完全な異常だ。
真っ白な着物が――――真っ赤なのだ。
右手を中心に、その顔にまで血飛沫で色づいて皮肉にも白い肌に映えた。
ニタリ、嗤って見せる女。
『あんたの母親かい?役にもたたない凡庸な人間に加え、余興の足しにもならないよ』
『………は、……え?』
意味を理解するより先に、真っ赤に染められた着物の先から覗く手の異常な赤さに目を逸らせず、千歳は震えて、そして、
「ぅッッ――――!!」
思わず胃の中の物を、顔を背け吐き出してしまった。
苦しい、気持ちが悪い、怖い、狂っている、だって。
―――人の、私の両親の血ではないか
『(動いた気配もなかったのに、何故……!)』
女は部屋の角に立っていたのに。何故真ん中にいた母の心の臓を突くことが出来たのか。
【噂】は本当だったのか。
口元を手で拭い、まきを抱く力を一層強める千歳は振り返り様に女を睨めつけ、怒りと恐怖に震えながら憎悪を言の葉に託す。
『……このっ……、ものの怪め!!!!!!!』