異常な事態の連続に、言葉も出ぬ家の者たち。
『だってぇ、声をかけているのに誰も返事してくれないんだもの』
『当たり前だ、これから殺されるんだぞ?』
―――殺される、そう当たり前のように口にした男は女と同じように白い着物に身を纏い、鋭い眼光で全員の顔を舐めるように見渡す。
恐ろしい、と。千歳はただそれだけの感情に支配される。こいつらは殺しに来たのだ。それを何とも思っていない、罪悪感なんてない。
そう、だって、
『……夾竹桃、かッ……』
吐き捨てるように言った千歳の言葉に、侵入者二人の視線が一斉に向けられる。
びくり、居竦んだ身体の震えに腕の中のまきが寝苦しそうに身じろぎをした。
しまった、今起きては……!
はっとした瞬間女の声が、千歳の鼓膜にするりと入り込んで脳に響く。
『この餓鬼、泣き喚いたら一番最初に殺してやろう』
『な、』
女がころころと笑いながらそう漏らしたのに反応したのは、千歳の父であった。
それでも反論の言葉が出せるほど余裕は戻っておらず、無様な言の葉の出だしをもらしただけに終わる。
『(お願い、まき、寝ていて……!)』
その懇願が届いたのか、まきはまた寝息をたてるので安堵に崩れ落ちそうになった。