―――室内に響く、怪しげな声音
瞬間、戦慄が走る。屋敷の最奥に位置する部屋にも拘らず、何故か明瞭な発音で聞き取れるそれは恐怖以外の感情を抱く隙もない。
それほどまでに圧倒的な、異常だった。
『ッ』
まきを抱く力を強める千歳の肩を抱く鬼灯も、顔を険しくさせるのだった。
『――――夜分遅くにすみませんねぇ』
それは女の声だった。薄気味悪い猫なで声が、絡みつくように耳から離れない。
その場にいた全員が金縛りにあったように動けず、全神経を研ぎ澄ませた。
その、時。
『あら寝てるの?』
『ッッッ!』
千歳の右耳の傍で囁かれた言葉に飛び上がる身体。全員がその声に弾けるように顔を向ければ、彼女の後ろに全身を真っ白な奇妙な着物に包んだ女が立っていた。
覗き込むようにしてまきを見下ろすその女の、何と色の白いこと。着物と同化するのではないかと思うほどの青白い肌。
くすり、笑みをこぼしながら上げられた瞳は―――血のような赤。
『っ……ぅ…あ!』
転げるようにしてまきを抱えたままなんとか逃げようとする千歳だが、竦んだ身体では思うように動けず。
その様子をけたけたと笑う女は口元を着物で隠し、瞳を怪しげに細めるばかり。
『あらあら怖がられちゃった』
誰なの、そう千歳が叫びそうになった寸前、
『お前がいきなり声をかけるからだろうが』
女とは反対側の部屋の角、丁度対角線上にまた招かれざる客が立っていた。