呉服屋はその日の業務を放棄し、早々に店仕舞いをすると家中の扉や窓を閉じ、何者の侵入も拒むように板を打ちつけた。
厳重中の厳重、それでもまだ足りぬと陰陽の道を学ぶ者を呼んで結界まで張らせた。
一階の最奥の部屋に、千歳と鬼灯、そしてまきがいた。
相変わらず眠るまきを抱きながら、千歳は慌ただしくも異常な周囲の空気に不安を隠せずにいた。
鬼灯だけが夫として、そして呉服屋の次期主人として威厳を保とうとしてなのか。それともあまりの事態に感情が失われているのか。
襖を見つめて、黙りこくっている。
『………もう、夜だ』
鬼灯の言葉通り、外はもう真夜中。
日付が変わる数刻前となって、いよいよ緊張も最高潮である。
千歳の母親は狂ったように手を合わせ祈っている。父親である現主人は目を血走らせ、孫と娘たちを守ろうと忙しなく動き回っていた。
『……鬼灯様』
『大丈夫、大丈夫だ』
千歳の肩を抱いた鬼灯の目が、決意に染まる。まきはまだ寝たままだ。
と。
『――――御免下さい』