一方、呉服屋の二階では一人の女が身を震わせいた。
ぎしり、と板敷の床が鳴ったことで怯えるように顔を上げた女は、そこに立っていた人物を視界に入れた途端泣きそうに顔を歪める。
そして、か細い声で名を紡いだ。
『鬼灯、様……』
『そんなに震えて可哀そうに』
藍色の着物に身を包んだその男は、己の顔に悲しみの色を浮かべ女の前に膝をついた。
女は泣きそうになりながら鬼灯《ホオズキ》と呼ぶ男を見上げる。それに応えるように女の髪を撫でて落ち着かせようとする。
それでも震えは治まるどころか、一層その身を揺らすばかり。
『ほ、鬼灯様、私はどうしたら……』
身体を小さくし、そう吐き出した女に鬼灯はゆっくり言い聞かせるよう言の葉を連ねる。