その瞬間に、緊張の糸がプツリと切れ、千歳が泣きだした。
『…っ……、ま‥き……』
それにさっと近づいてきた二人が何者なのか、だがきっと味方のはずだ。
助けを求めるように顔を上げれば、ゆっくり頷かれる。
『大丈夫、死んだわけではない』
「とにかくここを離れねば、それこそ死ぬぞ」
その言葉に首を傾げるより早く、紅という人物に千歳は抱き上げられていた。
腕にいたまきはもう一人の君影という人物が。
二人は、自分たちが破った窓から夜更けの町へなんと飛び降りたのだ。
思ったほど衝撃はなかったものの、ずんと重くかかる振動に本当に窓から飛び降りたのだと実感させられる。
そして。
「……振り返らないほうが、良い」
『な、ぜ……』
そう言われた時にはもう、振り返っていて。見慣れた呉服屋が、一階から燃えていた。
瞬きをする間にも生きているように炎が回り、生まれ育った生家を焼いて行く。
死ぬとは、このことだったのか。
『……』
炎の中ではためく不気味な夾竹桃の旗。それに鬼灯の顔が重なり、千歳の頬は静かに涙で濡れた。
家族を失い、夫に裏切られ、家も焼かれた。
残る息子と、謎の二人組。千歳は途方に暮れた。