『鬼灯、時間が過ぎてるぞ』
『あ?そうか、じゃ、まあ今夜はここで退散か』
淀んだ男の声に、あっさりと退散を決める鬼灯。女もくすくすと耳触りな笑みをこぼしながら髪をさらりと後ろへ払う。
『君影、また遊ぼうねぇ』
そう呼ばれた人物は何も返事はせずに、じりじりと後退し紅と呼ばれたその人の隣に並ぶ。
そして淀んだ男が肩にかけていた袋から何かを鬼灯へ投げる。
ふわり、広がったそれを見事に手で掴むと、そのままくるりと肩にかけて微笑。
『―――邪魔したな』
二人と同じように、白い着物。それを藍色のそれの上に重ねて羽織った鬼灯は、茫然とする千歳に冷酷な笑みを残し颯爽と立ち去るのだった。
『紅も君影も、またねぇ』
『………』
それぞれ、絶望、嘲り、視線、そんなものを残して消えて行った。
伸びる廊下にぼんやりと主張する白―――それがふと、神隠しのように消えた。