彼女はその仕草で、瞬時に理解した。千歳とまきに傷をつけぬようにしているのだと。咄嗟に邪魔にならぬところへ移動しようと辺りを見渡す。
部屋には刀のぶつかる甲高い音が重なり、精神を削られるような緊張を助長させる。
と。
『……』
奥で、一人戦闘に加わらぬ男の視線を感じて、顔を向けた。
壁に寄りかかる長身の男は、何を考えているのか分からぬ表情で千歳を見つめる。きゅ、と無意識にまきを抱いた。
鬼灯よりも短髪で、印象としては好青年。けれど、もっと彼を言い表すのに適格な言葉があった。
―――淀んでいるのだ
『よォ、人の娘よ』
『……私を殺すの?』
『そうだなー…。ま、それが最善なんだろうな』
『……』
来る――――そう思った時には男は千歳の眼前に立っており、影の出来た顔で見下ろしていた。
息を呑む千歳は、それでも睨むことは止めず。するとその男が笑った。
『母は強し、ってことかね?』
『……』
『鬼灯は紅に夢中だし、俺で我慢してくれよ』
「……っ」
気付いた時には息苦しくて、首に手がかけられているのだと遅れて認識した。