逃げようと思う前に身体が動く、そしてまきを強く抱きしめた。
守るのだこの子を、私は死んだって構うものか、この子を、この子だけを――――…!!
『ほ、鬼灯様…!』
千歳がそう叫ぶと、横で身を固くしていた鬼灯がゆらりと立ち上がる。
と。
『――――…じゃ、さっさと終わらすか』
『……え?』
立ち上がった鬼灯は気怠そうな表情で千歳を見下ろす。
聞いたこともない口調に、穏やかな声音ではなくぶっきらぼうな低いそれ。
『鬼灯、様?』
『おいおい、この女まだ分かってねぇのかよ?』
『……』
この方は誰だ。優しく、少し身体の弱い鬼灯様ではなかったのか?
今目の前にいる、妖しい雰囲気を纏うこの男は、誰だ?
鬼灯は茫然とする千歳の腕から強引にまきを抱き上げると。
なんと――――戸惑うことなくその首元に手を突き立てた。