「繋子は、冷静だからね。」


夫の部屋は湿って、凝縮した汗の、酸っぱい臭いがした。


「普通に心配してるんだけど、ただ、こういう事はなんというか、気持ちの風邪のようなものじゃないかと思うの」

「俺は病気じゃないから。自分で気を遣ってるから、大丈夫だから」

そんなピンク星人みたいな顔で嘘つけよ、とは言えない。

「じゃあ、学校にはいつ行くの?」

「そのうちだから、大丈夫だから」


そして、大丈夫の言葉は実現しないまま、今日に至る。

両親が、何やら相談をしているが、ツナ子はうわの空で仏壇の遺影を眺めている。
枠の中にいる祖父は、穏やかに微笑んでいる。