その日は異様な空気のまま、普段より早い臨時下校となった。
私も自転車に跨り、拭えない不安を抱えながら家に帰る。
ほかのクラスの人はみんな、笑いながら「今日どこで遊ぶ」とか「誰と誰が付き合った」とか。
そんな話を交し合っている。
「…澪」
そう呼ばれて振り向くと、青ざめた顔をした聖菜が私の隣に自転車を止めた。
「私ね、何か…変なの」
そう言って徐に見せた手のひらは、真っ赤に爛(タダ)れ腫上がっていた。
「どうしたの、それ…」
「わからないんだけど…。何だか、少し痛いような気もするの」
聖菜につられて、私も自分の手のひらを見る。
普通の、いつもと変わらない手だった。
「…私の気のせいだったらいいんだけど」
「うん……」
不安そうに呟く聖菜。
こんなとき、なんて声を掛けてあげればいいかわからなかった。
だから、こんな曖昧な返事しかできなかった。
――これが最後だと知っていれば、もっと、ちゃんと声を掛けたのに…