「みずきは、和歌サークルで何やってるの?」

「んー、私は藤原定家が好きだから定家の和歌の訳とか調べてるよ。」

「好きな和歌とか、ある?」

「あるよ‼やっぱ百人一首のやつが好き‼」

「まつほの浦、とかいうやつ?」

「そう‼」

来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや藻塩の 身もこがれつつ

松帆の浦の夕なぎの時に焼いている藻塩のように私の身は来てはくれない人を想って恋い焦がれています。

何かの本で読んだ訳だ。

この、いつまでも待っているしかない切なさが好きだった。

ふーん、と荻野目くんは呟くだけだった。

春の夕暮れを歩くのはけっこう好きだ。
あったかいから。