小さな手のひらが一瞬だけ見えて、それは俺の机をこれでもかという力で叩いていった。


「…夏那ー。あの子に何かしたの?」


「……」


そして、相坂姫芽は、ジャージのまま教室を出て行った。
みんなが注目する中でさらに目立ちながら。乱暴にドアを閉めながら。


「……」


あっけに、とられていた。

誰かに名前を聞いただけであんなに怒られたのは初めてだった。

これじゃ、なんかものすごくかわいそうな男じゃん、俺。


「夏那ー、謝ってきなよー」

「そうだぞナツ。女の子を傷つけちゃダメだ」

「…お前ら面白がってんだろ、ふざけんな」


…いや。でも。


女の子、じゃあなかっただろ、あの迫力。今思い出すだけでも震え上がる。

髪は肩くらいまであって、横顔はふつうの子って感じだったけど。

怒鳴ったときのあの顔、はんにゃみたいだったぞ。なんだアレ。


あれは、女の子のする顔じゃない。



「ほらっ、行くんだナツ」

「は?ふざけんな、なんで俺が…」

「お前がいきなり名前聞いたから怒ってんだろー。いいから謝ってこい!」


グイグイと背中を押す勇哉を、一瞬殴りたくなった。


「…」


…でも、怒らせたのは事実だし。

女の子を、しかも同じ出席番号の女の子を隣にして、この席で生きていくことは難しそうだしな…。


謝りに行った方がいいのか。いいよな。