屋上は空に近い。

 空にはママとパパがいて、私をいつも見守ってくれてる。

 そう思って、あたしは毎日悲しさを見せず、頑張って生きてきたんだ。

 無理してでも笑わないと、あたしはきっと、悲しみを抑えきれなくなるから・・・

 けどね、君が現れてからあたしの人生、大きく変わった気がするんだ。

 君がいるから、笑っていられるんだ・・・
「ママぁ~、パパぁ~!」

「ハハ、侑珠希は元気だな!」

「全く、侑珠希・・・こっちへおいで・・・」

 _________ママ・・・パパ・・・。

「・・・希、侑珠・・・侑珠希・・・侑珠希ぃっ!」

 ハッ・・・

「侑珠希、起きましたか?」

「・・・千織?」

「もう朝ですよ!起きてください。遅刻しますよ?」

 カーテンの隙間から差し込む光・・・また、一夜が明けて、朝が来た。

「煩いな。分かってるってば」

「お母さんが朝食を作って待ってます。服を着替えたら下へ降りてきてくださいね」

 あたしは無言のまま頷いた。

 千織は少し微笑んで、部屋から出ていってしまった。

 あたしは重い身体を起こし、ベッドから出て部屋の角に置いてあるクローゼットの中から制服を取り出し、さっと着替えた。

 クローゼットの下の引き出しから靴下を取って、あたしは部屋を出た。
「あら、おはよう侑珠希ちゃん」

 一階に降りると、そこには千織のお母さんが湯呑にお茶を注ぎながら千織と何かを話していた。

「おはようございます」

「朝食できてるから、どうぞ」

「ありがとうございます」

 あたしは千織の隣に座り、手に持った靴下を履いて朝食を食べた。

 先に食べ終えた千織が、洗面所からゴムと櫛を持ってあたしの髪をとかした。

「今日はツインテールでいいですか?」

「うん、ありがと」

 起きるのが遅いあたしは、毎日千織に身の回りのお世話してもらっている。

 毎日というより、昔から・・・子供の頃から。

 あたしの両親は、あたしが生まれたすぐ、交通事故にあって亡くなってしまった。

 まだ赤ちゃんで何もわからないあたしは、千織の両親に引き取られて育った。

「千織は侑珠希ちゃんの世話係ね、フフ」

 千織の両親とあたしの両親は、高校時代からの同級生だったと千織のお母さんに聞いたことがあった。

 詳しくは聞いていないけど、サークルで知り合い仲良くなったと聞いていた。

 だから、あたしはこの家に引き取られて大切に育てられた。

 千織と共に・・・千織はあたしと同い年で家族同然に育てられたから、今更幼馴染とも思いにくいところがあった。
「侑珠希、そろそろ行きますか」

 千織は手に持っていた櫛を洗面所に片付けてから言った。

「うん、そうだね。おばさん、ごちそうさま!」

 あたしも席を立った。

「もう侑珠希ちゃんたら。お母さんみたいに思っていいのよ?亜希奈みたいなしっかりした人にはなれないけど、私は侑珠希ちゃんのこと本当の娘みたいに思っているんだし・・・」

 亜希奈いうのは、あたしのママの名前らしい。

「ありがとおばさん。そう言ってくれるだけで嬉しいよ!」

「えぇ、それなら良かったわ」

「じゃあ、学校へ行きましょうか」

「うん」

 あたしと千織はあらかじめソファーに準備しておいたスクバを手に取り、玄関へと向かった。

 玄関に置いてあるローファーを履き、玄関のドアを開けた。

「お母さん行ってきます!今日は部活もないですし、早く帰ります」

「そう、じゃあ千織も侑珠希ちゃんも気をつけていってらっしゃい」

「「いってきます」」

 あたしと千織は外に出て、学校までの道を歩いた。

 頬に掠る風がひんやり冷たい。

 春にはなったが、やっぱりまだ肌寒い・・・。

「侑珠希、最近何かありましたか?」

「え、最近?別に何もないよ」

 あたしは無理に笑顔を作ってみせた。

 千織にさえ、あたしは悩みを言えない。

 ううん、これ以上千織たちや家族の人に迷惑かけたくないんだ。

「何かあるなら、ちゃんと言ってくださいよ?」

 少し怒りっぽく、千織は拗ねるように言った。





 
「わかってるわかってる」

「何もわかっていません!」

 千織は昔から心配性。

 すぐあたしを心配して助けてくれる。

 何度千織の優しさに、甘えてきたのかな・・・。

「千織、あたし・・・最近見るんだ、ママたちの夢」

 千織の眉が少し下がった。

「侑珠希の、ご両親・・・?」

「うん・・・夢の中でね、あたしの名前を何度も呼んで、あたしを抱っこしてくれて・・・顔は見えないけど、すごく優しそうな人たちなんだ・・・」

 あたしは目線を下に下げ、ただ歩行道を見つめた。

「侑珠希のご両親が、きっと侑珠希に会いに来てくれたんですよ?」

 千織はそっと、あたしを抱きしめてくれた。

 温かい、千織の温もりは、あたしの心も癒してくれた。

「私が侑珠希にしてあげられることはこれくらいしかないけど、でも!話なら沢山聞いてあげられるから・・・だから!もう少し私のこと、頼ってくださいよ・・・」

 千織はあたしの肩に顔を埋め、声を震わせて泣いていた。

「千織ってばもう!泣いちゃダメだよ!」

 あたしは自分の中の精一杯の笑顔を千織に向けて言った。

「侑珠希が抱え込んでいる辛さを、私も抱え込みたいんです!」

 こんな嬉しいことを言ってくれる千織を、あたしは障害、大切にしたい。

「千織、あたしはもう支えられてるよ?千織やおばさん、おじさんみんなに!あたしは支えられてるんだ・・・だから、もう十分なんだよ?」

 肩の上で泣く千織の髪を撫で、あたしは千織の肩を両手で掴んだ。

「ほら!早くしないと学校遅れちゃうよ!」

 あたしは千織の手を引っ張って、学校までの道を走った。

 校門の前には3人の先生が立っていて、玄関には2人の先生が立っていた。

「「おはようございます」」

 先生たちに挨拶し、あたしと千織は玄関で靴を履き替え、教室へ向かった。