「走れメロスか。お前、あの話好きか?」


また、喋らなくなった。

「あの話、王様は悪役なのに、最終的には都合よく良い人になるよな」

構わず、喋りかける。

「まぁ、嫌いじゃないけど。性善説のお伽話みたいだよな」

太一が不思議そうに聞いているように見えた。

あくまでも、ように見えた、だ。


「わかんないよな、そんなの。」

自分の声が優しくなっていることに気づいた。

「メロスは激怒した」



太一は、怒ったことはあるのだろうか。