甘い香りを漂わせ、そっと迎え入れてくれるこの街に、自分ではブレーキをかけられない程の全力疾走で堕ちて行く。
初めは一人で歩くのも怖かった夜の街。
だけど、今は一人で平気。
マリさんと最初はタクシーで向かっていたお店だったけど、最近の私は夜風に当たりながら歩く。
ケンと過ごしたこの街の空気が、とても好きだから。
きっと、県外のどこかと繋がってるであろう空を見上げて歩く。
毛皮のコートに包まれ、化粧はすっかり板に付き、今までの自分を否定するように明るく染め上げた髪の毛、足元にはブランドのハイヒールを履いてカツカツと歩いていく。
「お姉さん、良かったら今度飲みに来てよ~」
「はいはい、今度ね」
駅ビルの前でキャッチに繰り出しているホストをあしらうことまで、上手になっていた。
なっていた……ハズだったのに。
「こんばんは、あの……」
ある日の夜、他の子とは違う遠慮がちにかけられた声に振り向いた私は、うっかり……立ち止まってしまった。
だって
そこに立っていたホストの子は……。
あまりにも
……ケンに似ていたから。