「はぁー……」
予定通りカフェスペースに到着した私は、ブラックコーヒーを一口飲んでゆっくりと息を吐き出した。
疲れた……。
デスクに向かっている間は仕事に集中していて気づかないけれど、こうして休憩を挟むと自分が意外と疲れていたことに気づいたりする。
それにしても、薄いコーヒーだなぁ。
高級感の欠片もない紙コップの中の液体は、コーヒーと紅茶の間くらいの色をしていて、何だか味気ない。
――って、違うか。
カンちゃんの淹れる無駄に高級なコーヒーが濃いだけか。
それなのに、たかが一杯60円のコーヒーに文句をつけてしまった自分に反省しつつも、お金が取れるんじゃないかを思うくらい眺めがいい窓辺に設置されたフカフカのソファーに腰掛ける。
ピカピカに磨かれた窓からは、オフィスビルの群れが見下ろせて、窓に近寄りすぎると足が竦むくらいに高い。
だけどすごく景色がいいこの場所が、私は大好きなんだ。
癒されるなー……。
今日はすごく天気が良くて、青い空がずっと先まで続いている。
それをボーっと眺めながら、コーヒーのカップを手で包み込んで暖を取っていると、後ろから不意に声をかけられた。
「南場さん」
「……あ、お疲れ様です」
振り返ると、そこには数分前、私がここに来る時にカンちゃんと会議室に入って行った半沢さんが立っていた。
ペコリと頭を下げたものの、ほぼ初対面の彼に何と声をかけていいものか……。
その後に続く言葉が見当たらない。
そんな私の戸惑いに気が付いたのか、まるで私を安心させるように少し表情を緩め、「ここ、いいですか?」と隣のソファーを指差した。
「あ、はい。どうぞ」
ここは共有のスペースだし、誰が使ってもいいワケだからと思いつつ、ひとり掛けのソファーだから無意味なんだけど、心持ち反対側に体を寄せてみる。
適度な距離を保って、隣に座った半沢さん。
その瞬間、微かなシトラスの香りが鼻腔をくすぐった。
強すぎもせず、弱すぎもしないその香りは、すごく心が癒される香りで、結構前に小夜が「半沢さんは営業部のホープなんだよ」と語っていたのを思い出した。
やっぱり出来る男は、こういうところからして違うのかもしれない。
商談をしたり、営業を受ける側だって、オヤジ臭のする男なんかよりもこういう爽やかな香りの人の方がいいに決まってる。
そんなくだらない偏見にも似たことを考える私の横で、半沢さんは窓の外に視線を向けながら眩しそうに目を細め、「やっぱり違うな」とポツリと呟いた。