カタカタとキーボートをテンポよく叩いていくと、パソコンの画面が色とりどりのデータで彩られていく。
元々オタク要素のあった私は、パソコンでの作業が大好きで、大学在学中に趣味も兼ねてパソコン関係の資格をムダにたくさん取得していた。
まさかそれが評価されて、こんなにすごい会社に入る事が出来るなんて、神様ってのも捨てたもんじゃない。
――そんなくだらない事を考えながらも、文章やデータに間違いがないか、きちんと確認しながら作業を進め、ものの30分でかなりの量あった資料の修正を完了させた。
さて、カンちゃん……じゃなかった、“宮野さん”はお手すきかな?
データを転送した後で、最終チェックをお願いしようと左遥か前方のカンちゃんのデスクに視線を向ける。
だけどカンちゃんは誰かと電話中のようで、肩に受話器をはさめて会話をしながら、器用にメモを取っていた。
「……」
悔しいけれど、確かにこうして見るとカッコよく見える気もするし、しかもあの仕草がまた似合いすぎる。
でもそれを認めるのは悔しいから、視線を逸らして隣の席の小夜に声をかけた。
「ちょっとカフェスペースで休憩してくるから、宮野さんに伝言お願いしていい?」
すると案の定、小夜はそれまでの気だるげな表情を一変させて。
「もちろん!! 原稿用紙600枚分くらいの伝言でも構わない!!」
キラキラした瞳で、それはどうかと思える一言を力強く言い放った。
「“データ転送しましたので、チェックをお願いします”……以上」
「あと11万9967文字余ってるけど」
「いや、それだけで。ヨロシク」
「はーい」
笑いながら唇を尖らせた小夜の「お土産はホットココアで」という言葉を背中で聞きながら、ヒラヒラと手を振ってオフィスの出口に向かう。
するとそこには、他部署の確か1期上のツンツン頭の人が立っていた。
何だっけ……。
確か、営業部の大沢? 小沢?
とにかくそんな感じの名前の、結構仕事が出来るという噂の男性社員だ。
でもまぁ、私には関係ないし、きっと仕事でご一緒することもないでしょうし。
そんな思いから、会釈だけして横を通り過ぎようと思った。