「南場さん、午後イチの会議までにこの資料の画像をこっちに差し替えて、作り直してもらえるかな?」

「わかりました。あ、宮野さんすみません。このグラフなんですが、折れ線グラフよりも棒グラフにして、少し立体感を付けた方が解りやすいかと思うんですが……こんな感じで」

「あぁ、確かにいいね。じゃー、そこも修正お願いしていいかな?」

「はい。終わり次第データを転送します」

「助かるよ。じゃー、宜しく」


恵比寿駅の西口を出て、すぐ目の前にそびえ立つガラス張りの近代的なオフィスビル。

その中でも最上階の社長室のすぐ下階を陣取るフロアで、昨日の言い合いが嘘のように穏やかな笑みを浮かべてビジネストークを交わす私たち。


「あーあ、日和ってばいいなぁ……。今日も宮様スマイル最高!!」

「ん? 何の話?」

「私も宮様のグループに配属されたかったー!!」


――そう。

私とカンちゃんに起こった、あり得ない偶然。


地元の高校を卒業後、そこそこの4大を出た私は、何十もの会社の不採用通知に挫けそうになりながら就職活動を頑張って、一部上場企業であるこの会社――ハナビシ・フューチャー・リノベイション(通称H・F・R)――の内定を掴み取った。


色々な会社のPR方法の立案から、イベント開催の企画まで広いフィールドを活動の場としているこの会社。

その中でも、大企業からの依頼の全てを一手に担うこの『新規事業部 企画開発課』は、私にとっては手の届かない憧れのような部署だった。

まさかそんなところに採用してもらえるなんて、夢にも思わなくて……。


だけど、そこでまさか……宮野 完治(当時26歳)と8年ぶりの再会を果たす事になるとは、もっともっと夢にも思っていなかった。


「えー。小夜《さよ》のところの田所さんだって、時代遅れのオールバックが素敵じゃん」

感情を表に出さず、ニッコリとほほ笑んだ私は「不公平だ」と未だに鼻息荒く抗議を続ける同期の藍田《あいだ》 小夜をなだめながら自分のデスクのパソコンに向かった。