「いやね、ずっと綺麗な方だなぁと思っていたんですよー」

「……ありがとうございます」

私の思い過ごしかもしれない。

でも……。

嫌な予感が確信に変わったのは、お猪口を持ったままの私の手に与野さんが手を伸ばした瞬間だった。


「南場さんは手も綺麗なんですねー。いや、本当に綺麗だ。お肌もスベスベじゃないですか」

じっとりと汗をかいて湿った手で指や手の甲を撫でられ、ゾワゾワと鳥肌が立つ。

「あの、」

どうしよう。
どうすればいい?

本当なら今すぐにでもこんな手を振り払って、「ふざけんな、クソジジイ!」って言ってやりたいけど。

だけど、この人は……。


「脚も長くて、すごく綺麗だ。今の若い人は、私達の世代の人間とは違う生き物みたいですねー」

私の手に触れていた与野さんの手が、正座をした太腿の上に置かれる。

何か言わないとと思うのに、上手く逃げ出す言葉が見つからない。


もう甘味まで運ばれてしまったこの部屋に、中居さんが来ることはきっとなくて。

離れのこの部屋には、中居さんの足音はおろか、他のお客さんの声さえ聞こえない。

こんな事をしようと企んでいた与野さんの事だから、「仕事の話をしているから」などと言って、人払いをしている可能性だってある。


「……っ」

働かない頭で逃げ道を探す私に、与野さんは抵抗されないと踏んだのか、スカートの上から太腿を撫でたその手がゆっくりと下に向かい、今度は膝に直接触れた。

ストッキングを履いてはいるものの、ほとんど直に感じる与野さんの手の感触。

お酒のせいなのか、それともこの状況に興奮しているせいなのか、嫌に高い体温が気持ち悪くて仕方ない。


いつの間にか喉はカラカラに乾いていて、唾を飲む音が耳元で自棄に大きく聞こえた。

「南場さんは色白だなぁ」

少しずつスカートが捲り上げられ、徐々に露わになっていく太腿。

「……」

それに視線を落としながら、私は手をギュッと握りしめた。


確かに混乱してはいるけれど、言葉を発することが出来ないわけじゃない。

「やめて下さい」って、声が出ないわけじゃない。

だけど、それをしないのは……。


「私もね、今回のこの宮野さんの考えた企画はすごく楽しみにしているんですよ」

「……」

「だから、出来る限りの協力はさせてもらいたいと思っているですがね……」

ゆっくりと、まるで愉しむように私の太 腿を撫で上げる与野さんは、思わせ振りにそう言って口元に笑みを浮かべる。


――この人は、わかっているんだ。

「ただね、なんだかんだ言いながら、うちも不景気の煽りは受けていますからねー」

自分の会社の出資が、今回のスポンサー企業の中でどれほど大きな比重を占めているかも、

「今回みたいに、ターゲット層が収益率の低くそうな若者っていうだけで、渋い顔をする連中もいるんですよ」

「……」

「わかります? 南場さん」

会社では新人の部類にはいる私が、この手を振り払えないということも。

与野さんは全てわかった上で、カンちゃんのいない今日、私をこうして“商談”に誘ったんだ。