「一応カンちゃんにメールしておこう」
地下鉄に乗り、六本木に到着した私は、携帯を取り出して手早くメールを打って送信する。
まだ飛行機の中だろうけど、きっと着いたら連絡をくれるだろうし。
「よし。で、どこのお店だっけ……」
与野さんが指定してきたお店は、調べたところによると、ちょっとした料亭のようなお店で、考え込みながら自分の体に視線を落とす。
――こんな服でいいのかな?
一応まだオシャレには気を遣うお年頃だから、たぶん大丈夫だとは思うのだけれど、スポンサー企業のお偉いさんと料亭なんて行ったことがないから勝手がわからない。
でもここまで来てしまったものは仕方がないし、向こうだって私が仕事帰りだと分かった上でのそのお店のチョイスだろうから、きっと大丈夫なのだろう。
腕時計に目を落とすと、待ち合わせの時間まで少しだけ余裕がある。
何か暇つぶしになるものはないかと周りをキョロキョロ見回すと、すぐそこにカフェを見つけた。
そんなに長居はできないけれど、ここでこうしているわけにもいかないし。
どうせなら中に入ってお勉強でもしていようと、たくさんの人が行きかう交差点を渡り、カフェに入った。
お店の中には、コーヒーのいい香りが漂っていて、レジでカプチーノを頼んだ私は隅のテーブルに腰かけ、カバンからパソコンを取り出してインターネットを開く。
「ヤ、マ、ノ……と」
よく考えたら、スポンサーであるヤマノの事をそこまで詳しく知らない私。
一応フェスにヤマノが出資してくれる事が決まった時に調べはしたものの、もう少し知識が欲しい。
それに会話に困った時に、使えるかもしれない。
画面を眺めながらカプチーノに手を伸ばし、それをゆっくり口に含むと、程よい苦みが口に中に広がる。
あぁ、頭がスッキリするなぁー……。
少し前まで、コーヒーの美味しさなんてさっぱり解らなかったのに。
カンちゃんと一緒に暮らすようになって、毎日のようにコーヒーを飲んでいたら、いつの間にか自分でも好んで口にするようになっていた。
同じ家に暮らす家族がそうであるように、一緒に住み始めた時から少しずつ、私とカンちゃんの生活サイクルはリンクしていっていて、今では休日に丸一日同じ部屋に一緒にいても気にならないくらい。
いくらイトコとはいえ、それって何だかすごい気がする。
それから私は、カプチーノに癒されながらヤマノのホームページや、最近の化粧品やメイクの情報を一通り調べ、与野さんの待つお店に向かった。