次の日、無理やり有給をねじ込んだ私は、朝一番の新幹線で私とカンちゃんの生まれた街に向かった。
カンちゃんに貰った“ヒヨコ星”の入ったカバンを持って、電車に乗り込み、開発が進んで見慣れない高層マンションが立ち並んだ駅で降りて歩き出す。
大きな通りを抜け、ハナミズキが植えられた緑道のその先。
もう何年振りの訪問かさえ思い出せないその家のチャイムを押して、中からの返事を待った。
「はーい!」
インターホン付きのチャイムなのに、元気よくドアを開けた伯母さんに思わず笑ってしまう。
「いらっしゃい、ヒヨちゃん!」
「こんちには」
「カンちゃんの部屋で、探したい物がある」――前もってそう連絡をしておいた私を、伯母さんは熱烈歓迎してくれた。
「昨日はあんな時間にメールしてごめんね」
「いいのいいの! どうせ寝付けなくて起きてたし。で、あの後ケーキ焼いちゃったの! 一緒に食べよう」
「やったー! 伯母さんのケーキ、すごい久しぶり!」
ここに来るまで、私はまた胃痛にやられかけて、それでも行かなきゃって……。
着いたらすぐにカンちゃんの部屋に行こうと思っていたけれど、緊張でバクバクいっている心臓を落ち着かせる為にも、伯母さんのお誘いを喜んで受ける事にした。
リビングで出されたのは、フワフワのシフォンケーキと紅茶。
「オレンジだー! ちゃんと私が好きなの覚えてくれてたんだ」
さっきまでの胃痛は何処へやら。
パクパクとケーキをパクつく私を、伯母さんは向かいの席から嬉しそうに眺めていた。
――それから1時間後。
「私も一緒に探そうか?」
「ううん、大丈夫!」
伯母さんの申し出を断って、2階に上がる階段を登る。
あぁ、どうしよう。
やっぱり緊張する。
ギシギシと、小さな音を立てて軋む階段を1段登るたび胸のドキドキが大きくなっていく。
そして、もうドキドキが限界を迎えて吐き気すら覚え始めた頃、目の前にカンちゃんの部屋の扉が現れた。
何となく片付けられずに、そのままにしてあるというカンちゃんの部屋。
ゴクリと唾を飲み込んで、ドアノブを掴む手に力を込め、ゆっくりドアを開けた。