「ジャンヌ君は、宮野君の気持ちは知っているんだね?」

それに少し胸を痛めながら、小さく頷く。

すると、高幡さんは「そうか」と相槌を打って。


「あの頃宮野君は、君に対する気持ちがよくわからないと言っていた」

「……」

「君への想いが、本当に“今”の君を見てのものなのか、それとも昔からの惰性で生まれる感情なのか」

ずっと――私が彼を好きになるずっと前から、私を想ってくれていたカンちゃん。

ふと思い出したのは、榊原さんの“雛鳥の刷り込み”の話だった。


「榊原君と君が付き合っているのは知っていたし、盗用騒ぎの真実を知る彼は、榊原君の君への想いの深さもにも気がついていた」

「……っ」

泣かないように必死に耐えてきたのに、もうダメだった。


「本当は、君の気持ちなんて考えずに、全てを壊してでも君を手に入れたいと思った。――君がイギリスから帰ったあと、時々そんな事を考える自分が許せないんだと言っていたよ」


すっかり冷えた手の甲に、温かい涙がポツポツと零れ落ちる。


自分が許せなかったと、自分を責めているカンちゃん。

だけど、本当は違う。
私がそうして欲しかったんだ。

全部、全部投げ捨てて、カンちゃんに甘えて縋ろうとして、彼にそんな感情を抱かせてしまったのは私だ。


だから、私が悪いのに……。


あの時カンちゃんがどんな想いで私に別れの言葉を告げたのか。

想像しただけで、胸が痛くて苦しくて――涙が止まらない。


声を押し殺し、震える息を吐き出す私に、高幡さんは何も言わなかった。

ただそこに居て、私が泣き止むまで静かに空を見上げていた。


そして私の涙が止まり、同じように星空を見上げると、

「宇宙船の助手席の話を覚えているかい?」

突然そんな言葉を発した。


――宇宙船の、助手席?

唐突な質問に、混乱した頭のまま、私は首を横に振る。


「それなら一度、彼の実家の部屋に行ってみるといい」

「カンちゃんの……部屋?」

「そう。そうしたら、何か思い出すかもしれないよ?」


高幡さんは、全てを教えてはくれかった。

けれどそれは、“自分で思い出さないといけないこと”だからなのだろうと思った。


たくさんの愛しい気持ちと、幾つかのヒントを私に与えた高幡さんは、帰りしな、タクシーに乗り込む私に言ったんだ。


「もしも彼の部屋に行く時は、小さな“ヒヨコ星”も連れて行ってあげるといい」

「“ヒヨコ星”って……」

「“The weather planet”――あれは、君の星だ」

「……っ」

あぁ、そうか。

こんな事に、今更気が付くなんて。


【weather:天気、気象、日和】


『コロコロ表情が変わる、可愛くないイトコがいる』――それはまるで、この星の天気みたいに。


『これを作るきっかけをくれた大切なイトコの日和に』


あの“地球”の全ての始まりは、カンちゃんの私への想いだった。