あまりに急な話題転換に、思わず眉間にしわを寄せ、目を瞬かせる。

けれど、話はきちんと続いていた。


「だけど違ったんだ」

「……」

「彼は、そんなに弱い男じゃなかった」


カンちゃんはやっぱり優しくて、大切な人をとっても大切にする人だった。


「宮野君は、ずっと私の夢を叶えたいと思ってくれていた」

そう言えば、前にもそんな事を聞いた気がする。


「“星が見えない夜は、酷い孤独感に襲われる”――つい漏らしてしまった私の胸の内に、彼は笑って言ってくれたんだ」

「……」

「『いつか本物の星空を作るので、少しの間我慢して待っていて下さい』とね」


本当に、カンちゃんらしいと思った。

大好きな“星の師匠”と――きっとその奥さんの為に、カンちゃんはそのチャンスを待ち続けていたのだろう。

すぐに想像出来るカンちゃんの子供みたいな笑顔に、胸が締めつけられて泣きそうになる。


だけど、話はまだ終わらない……。


「それと同時に、彼は自分と君の夢も叶えたかった」

「……え?」

カンちゃんと私の夢?

その言葉に、心臓がドクンと大きく鼓動した。


――「ヒヨは、俺の子供の頃の夢って覚えてる?」


それはほんの少し前にイギリスで、カンちゃんが口にした言葉。


何だろう。
何か大切なことを忘れている気がする。

カンちゃんの小さい頃の夢は、宇宙飛行士だった。

じゃー、私の夢は?


「……」

思い出そうとすればするほど、焦って頭の中が真っ白になっていく。

口を手で覆うようにして考え込む私を、高幡さんはじっと見つめて……。


「宮野君は、ここに来てよく君の話をしていた。とても楽しそうに、少しだけ文句なんかも言いながらね」


ポタリ、ポタリと静かな水面に水滴を落とすみたいに、ゆっくりゆっくり柔らかい声で言葉を紡ぐ。


「だけど、君が榊原君と付き合うようになった頃から、それが少しずつ変わり始めた」


時間はもう、夜中の2時を過ぎていて、外の空気はかなり冷え込んでいる。

それでも私達がこの場所を離れようとしないのは、きっと高幡さんが今この話をする必要があると考えていて、私もそれを今知りたいと思っているから。


その話を聞いて、どうなるのかはわからないけれど……。

それでも今のこの行き場のない、宙ぶらりんなカンちゃんへの気持ちをどうにかしないと、私はこの先、きっと前には進めない。