一気に吹き出してくる冷たい風に、思わず顔を顰める。
開かれた扉のその先にも、暗闇が広がっていて……。
「天体……望遠鏡?」
ガランとした部屋の、開け放たれたドーム型の天井。
その先の夜空に、鏡筒が向けられていた。
ここにこんな物があった事もそうだけれど、何よりも私を驚かせたのはその大きさだ。
目の前にあるのは、一般向けではない――まるで天文台で使われているような大きな望遠鏡。
どうしてこんな物が、ここにあるの?
扉の前で立ち止まったままの私に、高幡さんは近くの椅子に置いてあった毛布を差し出し、「少し待っていてくれ」とその大きな円筒状の装置に近づく。
ファインダーと接眼レンズを覗き込みながらカチャカチャと何かをいじり、しばらく経った頃、背後の椅子に座る私に向き直って微笑んだ。
「覗いてみるかい?」
「は、はい」
何だかよくわからないままそこに近づこうとすると、「寒いから毛布をかけて来なさい」と言われ、言われるがままに肩から毛布をかぶる。
「今日は空気の揺らぎが少ないから、綺麗に見える」
そんな声に背中を押されながらレンズを覗き込むと――。
「うわー……!」
見えたのは、幾重にも重なるリングと、その中央に浮かぶ薄い縞模様の入った茶色の天体。
「土星だよ」
今まで教科書やテレビでは見た事があったけれど、こうして天体望遠鏡越しに自分の目でそれを見るのは初めての経験。
そのあまりの美しさに、息を呑んだ。
「スゴイ、本当に綺麗」
独り言のようにポツリと呟いた私の後ろで、高幡さんがクスッと小さな笑いを漏らした。
「こうして見ると、君達はやっぱりどこか似ているね」
「え?」
「彼も、いつもここでそんな顔をしながら望遠鏡を覗いていた」
さっきから、そうかもしれないと思っていたけれど、ここまでくると“彼”という言葉が指すその人が誰なのか、嫌でもわかってしまう。
ずっと触れる事のなかった、カンちゃんの話。
あえてそうしてくれていたはずなのに、どうして今、高幡さんはそんな話を始めたのだろう。
耐えきれそうにない胸の痛みから逃げるように、どうにか誤魔化してその場をしのぐセリフを考える。
だけど振り返った先にいた高幡さんは、私の心の中を覗き込むように、真っ直ぐ私を見据えていて……。
ずっと昔から知っているカンちゃんも、知り合ったばかりの私もとても大切にしてくれるこの人には、嘘を吐くことも、気持ちを誤魔化すこともしたくないと思った。