麻布十番駅で電車を乗り継いで、高幡さんの家の最寄駅で降りる。

そのまま人のいない暗い道を進み続けて数分――彼の家が真っ直ぐ先に見える道の真ん中で、私は足を止めた。

「あれ?」

まだ数百メートル離れたこの場所からでも分かる“異変”。

「電気が……点いてる」

そんなはずはないと、少し足早にその場所に歩み寄る。

こんなに遅い時間に来たのは初めてだから、もしかしたら家の場所を間違えたのかもしれないと一瞬思った。


――でも。

「どうして?」

目の前の石造りの洋館のような建物は、どこからどう見ても高幡さんの家。

煌々と――とまではいかないけれど、いくつかの窓からは確かに明かりが漏れている。

高幡さんが、帰って来てるの?

逸る気持ちを抑えきれず、すっかり雑草の生えてしまった前庭を走り抜け、玄関のドアノブに手をかけた。


「高幡さん!!」

やっぱり明かりが点いている。

ドアを開けた先にある廊下の電気が点いていて、さっきまで沈んでいたのが嘘みたいに、胸をワクワクさせながら彼の名前を呼んだ。

「高幡さん、南場です!!」

こんな夜に大声を出すなんて非常識かもしれないけれど、とにかく高幡さんに会いたくて……。


――けれど。

「……あれ?」

しばらくその場で待ってみても、いつもの返事が返ってこない。

もしかして、出かけている?

こんな時間に?

自分のありえない考えに頭を振り、他の可能性を考える。

まさか、この家を他の人に譲ったとか……?

一番考えたくないパターンが頭に浮かんだ次の瞬間。

「ジャンヌ君か……?」

階段の上からヒョコっと顔を出した高幡さんの姿と声にホッとして、思わずその場にへたり込んでしまった。


「おー、どうしたどうした!!」

慌てた様子で、バタバタと階段を下りてくる彼は相変わらずで、笑みが漏れる。

そんな私を不思議そうに見つめた後、彼も「会えて嬉しいよ」と、1年前と同じ笑顔を浮かべた。