「あのさ――」

どこか緊張したように、カンちゃんが再び口を開いたその時。

「……ヒヨ、携帯鳴ってないか?」

「え!? ご、ごめん!!」

微かに聞こえる着信音に、慌ててカバンを手繰り寄せる。


「何だろ」

カンちゃんに促されて、体を起こし携帯を確認する。

「……」

篠塚さん?

表示されていたのは、篠塚さんからのメールを受信したというメッセージだったのだけれど……。


――これは、どういう事?


タイトルさえないメールには……

『“宮野完治の作品の盗用をはじめ、その他いくつかの盗用問題の暴露で、社のイメージを悪くした”という理由から、長谷川企画がシュンを訴えるつもりらしい』

『その事で長谷川企画の長嶺《ながみね》という人が、南場日和の証言を希望している』

というような事が書かれていた。


日本とイギリスの時差は9時間。

今イギリスが夜の7時という事は、日本は朝の4時という事で……。


メールの最後には「出来ればシュンを助けてあげて欲しい」――と、そう書かれていた。

こんな時間にメールをしてくるという事は、篠塚さんもきっと今その事を知ったのだろう。


一瞬にして真っ白になった頭では、その内容の全てを理解する出来なくて、携帯を握りしめる手が小さく震え始める。


「どうした?」

私の様子がおかしい事に気づいたカンちゃんも、星空を見上げるのを止めて起き上がり――何も答えることが出来ない私の手から携帯を抜き取った。


「見るぞ」

その言葉に何とか頷くと、カンちゃんは画面に視線を落とし、小さく舌を打ち、前髪を掻きむしりながら溜息を吐き出す。


「……俺、勘違いしてたかも」

「え?」

声を震わせる私の瞳を、カンちゃんが真っ直ぐに見つめ、そして胡座をかいて私に向き直った。


「あの“地球”の話をされた時、榊原さんは何て言ってた?」

私の気持ちを落ち着けるように、冷たくなった手を自分の温かい手で包み込みながら、ゆっくりとした口調でそう尋ねる。


あの“地球”の話をされた時……。

必死に記憶を掘り起こして、あの日の榊原さんの言葉を思い出す。


「榊原さんは、“自分が盗んだ”って言ったのか?」

「……違うの?」


――まだ、私の知らない真実があるのかもしれない。


その表情からそれを覚った私に、カンちゃんは顔を顰める。


「カンちゃん、どういうこと? それに、どうして私が証人に……?」

そもそも私の企画を榊原さんが盗用したという事は、公にしていないはずなのに、どうして。


私の言葉に、カンちゃんは星が瞬く天井を一瞬見上げ、息を吐き出して、

「あれは、榊原さん1人でやっている事じゃない」

考えもしなかったそんな言葉を口にした。