「宮野さんは、」

「え?」

本当はストレートに「私のこと、何て言ってたの!?」と聞きたいけれど、そういうわけにもいかないもんだから。


「あ……すみません。宮野さんとはあまりそういったお話をしないので、自分がどのように評価されているのかが気になってしまって……」

“いやだ、私ったらつい”という雰囲気を醸し出しながら、「すみません、忘れて下さい」とはにかむと、まんまと騙された半沢さんは笑みを浮かべながらカンちゃんの私への評価を話してくれたんだ。


「すごく気が利くし、仕事が丁寧で正確だって褒めていましたよ」

「……」

「それに、すごく努力家で向上心がある、新規事業部の期待の若手で……自慢の部下だって言っていました」


――カンちゃんめ。


「それは買い被りすぎです。実際は、仕事を進めていくたびに自分の未熟さを思い知って、ひとり悶々としているんですから」


普段はあんなに人に暴言ばっかり吐いているカンちゃんの、私の仕事への評価は思ったよりも断然高評価で。

自分でもわかるくらい、頬が緩んでしまっている。


カンちゃんがどうこうというよりも、上司からそんな風に評価をしてもらえていることが素直に嬉しいと思った。


社会人になって、この会社に勤め始めてもう3年。


ずっと憧れていて、楽しいと思える仕事とはいえ、残業は多いし怒られることも多々あるし。

決して楽な職場ではなかったから、社会人としての自分を認めてもらえたみたいで嬉しかった。


「それで、食事なんですが、来週の金曜日なんて――」

「すみません、半沢さん」

「え?」

「お気持ちはすごく嬉しいのですが、二人きりでお食事は……」

最後の“……”に、暗に「あなたをそういう対象としては見られないです」という気持ちを込める。


正直、こんな風に会社の人から口説かれるのは初めてではない。

でも興味がない人と二人で食事をして、恋に発展するかもしれない関係を築くほど彼氏を欲しているワケでもないから。


微妙な関係になったり、相手に期待を持たせたりしないように、こうして先手を打つようにしているのだ。


相手がよっぽど鈍い人でなければ、大抵このパターンでみんな諦めていく。

時々「食事だけでも」と粘る人もいるけれど、その時はもう相手が諦めるまで――というか、無理だと覚るまで――とことん予定でいっぱいのフリを決め込む。