「ちょっとごめん」
奏がレンズから離れると、彼女の肩越しに颯の顔が代わりに覗き込む。
彼の綺麗な手が奏の後ろから現れた。調節ねじを回し、反射鏡を調整する。
「わ…」
顕微鏡がなければ、奏が颯の腕に包まれているようだ。
時折、彼の二の腕が彼女の肩に触れる。
奏は見る見るうちに顔が真っ赤になった。
「これでどう?」
颯の顔が離れ、奏は再びレンズを覗く。
「あ!みえた!!」
ぱっと明るい表情になる。
先ほどの恥ずかしい状態も忘れ、無邪気に彼女の真上にある颯の顔を見上げて笑いかけた。
「すごいね!」
「あ…うん…」
すると颯はぱっと体を離した。
「ん?」
奏は振り返って颯の顔を覗き込む。
「どうしたの?」
颯は、手を口元にあててなにか考えている。
「颯くん?」
「あ、いや、なんでもない」
軽く微笑んで、奏の隣に座り再び作業をする。
奏は不思議そうにその様子を見ているが、隣に座ったのを見てほっとしたような少し残念そうな顔をしてまたレンズを覗き込んだ。