「琴ちゃん、どうしたの?」
教室へ着くと奏の手を離した琴子に問いかける。

「別に。奏に変な虫がつかないようにしたの。またややこしくなったら嫌でしょ」
奏はその言葉に首をかしげるが
琴子はそれを見てまた、ため息を吐いた。

「ほら、席に着け―」
実験室では、出席番号順に座るため
番号が前後の奏と颯は隣同士になる。

奏にとって、面倒な実験も幸せな一時になるのだ。

「今日は顕微鏡使うけど、全員分ないから隣の人と二人で一つな」
そう言った先生に、奏は感謝と戸惑いの視線を向けた。

「俺、取ってくるな」

「えっ?あ、うん…ありがと…」
急に話しかけられ、声が裏返ってしまった奏は恥ずかしそうに俯いた。


「はい」
机に顕微鏡を置き、奏の隣に座る。

着々と手際よく準備をしていく颯。
顕微鏡を覗き込んでピントを合わせようとする真剣な横顔に見とれていると
ふいに彼がこちらを向いた。

「見る?」

「あ、うん…!」
慌てて颯のほうへ椅子を近づけ、顕微鏡を覗き込む。

「うーん。見えないよ?」

「本当?じゃあ…」
すると颯は席を立ち、奏の後ろへまわった。