「琴ちゃん?教室行くよ?」
我に返った琴子は少し笑って奏の後を追った。

「今日はなんの実験するのかな?」

「さあねー」

琴子のほうを見て話していると
前からやってきた人に、奏は気がつかない。

「奏!」
危ない!と言う前に、彼女はぶつかってしまった。

「おっと…」
堅い胸元に顔面をぶつけてしまう。

「ご、ごめんなさい!」
目の前の人はとても背が高く、とても小柄な奏は首をほぼ直角に曲げて
見上げなければならなかった。

「大丈夫?」

「はい!」
相手が怒っていないとわかると、ほっとしたように笑う奏。
相手の男子が少し顔を赤らめたのを、琴子は見逃さなかった。


「奏。早くしないと授業はじまるよ」
奏の手を引き、早足で教室へ向かおうとする。

「琴ちゃん!あ、あの。ありがとうございました!」
奏は少し残念そうな男の子に軽くお辞儀をしながら琴子に連れられて去って行った。