「なんだこれ」
奏の後ろから声が聞こえた。
慌てて教科書を胸に抱いて隠し、振り返ると

「颯くん」

皆川 颯(みながわ そう)

整った顔立ちでクールだが優しく、今女子の人気が急上昇している男の子。

「大丈夫か?誰にやられた?」
優しく問いかけられると
胸が締め付けられた。

「平気だよ」
それしか、言えない。
不満そうな顔をする颯に背を向け、廊下で待っている友達のもとへと駆けていく。

奏は颯のことが好きなのだ。

「どしたの?平気?」
心配そうに聞いてくる笹野 琴子(ささの ことこ)に、
先ほどの教科書を見せる。

「うん…教科書、やられちゃった」

「はあ?また?」

怒りをあらわにする親友に、当の本人は苦笑する。

「大丈夫だよ」
すると琴子は少し考えてから、にやりと笑う。

「でもまあ、皮肉なことにそのおかげで〝彼〟と話せたんだもんね」
その言葉に、奏は顔が真っ赤になる。

「いや、でも…あの…」

「なに、何話したの?」
目を泳がせている奏に詰め寄ると、奏はすこし落ち込んだ様子で
話し出した。

「心配してくれたの…。大丈夫かって。でも私、逃げてきちゃった…」
琴子は奏の頭をなでながら慰める。

「次は、もっとがんばろうね」

「うん!」
満面の笑みを浮かべて頷く奏を見て、琴子はため息をつく。
(こんな笑顔見たら、どんな男もノックアウトだと思うけどね)

彼女の性格からして、そんなことを計画的に行うなんて
絶対に無理なのだが。