「颯ー!」
名前を呼ばれて振り返ると、決して低くはない身長の颯より頭一つ分ほど背の高い男が軽い足取りでやってきた。

「どうした?」
少し呆れたように廊下の壁に寄りかかる。

「俺、一目惚れしちゃった!!」
キラキラとした瞳で話すのは、颯の親友の岡崎 正樹(おかざき まさき)。
颯はそんな彼の言葉に一瞬目を見開いて、ため息をつく。

「…また?」
正樹の一目惚れは癖のようなもので、何度も同じことを聞かされて飽き飽きしていた。

「今回は違うんだって!!前から可愛いと思ってたけどさ、今日初めて間近で見たの!!もうビビった!!超可愛いよ!?」

「ふーん」
あまり興味がなさそうに返事をして、再び歩き出す。

「ちょっ…颯ー!」

「あ」
颯は数歩歩いて何か思い出したように立ち止まった。

「俺、今日デート」
正樹は驚いて、少し考える。

「お前、彼女いたっけ?」

「違う。…なんかほっとけない子。それと…」
正樹の肩をポンと叩いて最後に一言

「超可愛いよ?」
と勝ち誇ったように笑って言った。