◇◇

本当に清見はいた。午前中とは立場が逆だ。わたしがコートを走り回って、清見が上からそれを見下ろす。

彼は特に目立つ生徒というわけではないけれど、わたしは清見しか知らないから、すぐに見つけた。


「北野さんっ」

「え、あ、はいっ」


ぼうっとしていると危ないな。容赦なく飛んでくるボールを顔面すれすれで受け止めて、慣れないドリブルをして走った。

それにしても全然ヘタクソだ。わたしだけじゃないけどさ。

うちの球技大会では、バスケ部員はバスケに出場できないし、バレー部員はバレーに出場できないことになっている。他の競技も同様。だからどの競技も、素人だらけのつまらない試合だ。

まるで砂糖を追いかける蟻のように全員でボールを追いかける図は、我ながら笑える光景だな。


「北野さんナイッシュー!」

「ナイシュー!」


ぽんと放った一球が、奇跡的にゴールの輪っかをくぐった。

そしたら、いつも仲良くしていないような子たちがハイタッチを求めてくるんだもん。すごい。名前、覚えてなくって、ゴメン。


「北野さーん! ナイシュー!」


上から降ってきた声に顔を上げると、背の高い茶髪が、わたしに向かってぶんぶん手を振っている。

……誰だっけ。

妙に親しみに満ちた笑顔に、どうしても笑い返すことができなくて、ふいっと逸らした。