顔を震える手で覆いながら

「私は逃げたわ…みつきを見殺しにしたの…奈都を…捲き込みたくなかったのよ…いえ…恐ろしかったの…自分が可愛かったのよ…!」

吐き出すように自己嫌悪する。

「…秋穂さん。それで良かったんです。逃げなくてはいけなかった。母はそれこそを望んでいた。」
「いいえ!たとえ…そうだとしても、みつきを助けられたかもしれないのに…」

激しく頭を振りながら、すがるように頼子を見つめた。

「母は生きています。」
「えっ…?」

目を見開き息を飲む秋穂を、頼子は励ますように頷く。

「敵に囚われてしまったが…ずっと意識の無い秋穂さんを…見守り続けていました。」
「みつきが…?やっぱりあれはみつきだったの?」

瞳に透明な滴を浮かべる。

「意識の無い間、ずっと…みつきが私を起こそうとしている気がしていたの…でも、私は応えられなかった…」
「…秋穂さん、疑心暗鬼に取り憑かれとったんですわ。みつきさんはずっと秋穂さんを乗っ取られんように護ってはったんです。せやからウチらも祓えに成功出来たんですわ。」
「はら…え?」

疑問を浮かべた視線を紗季に向けると、その先を躊躇う様に紗季は頼子をチラッと窺って、思い切って続けた。

「みつきさんは…生きてはります。せやけど、秋穂さんを護ってはったのはみつきさんの霊です。」
「たま…し…い…!」

一気に顔が青ざめる。音にならない声が唇を震わせる。

「紗季!」

頼子が咎める声をあげると、紗季は視線でその先を止めた。

「ショックやと思う。霊なんて聞いたら死んでしもたんやろうかって思うやろ。でもちゃんと説明したらな、そっちの方がアカンやろ。」
「しかし!」
「どっちにしても今はみつきさんの身体が敵にあるんはほんまやろ?説明しとかんで、みつきさんに釣られて秋穂さんまで向こうに渡ったらどないするんや?」