残念そうだが、割とアッサリ加代を解放する。
すると同時に、秋穂が病室に戻ってきた。

「賢司お兄様。奈都様のお母様のお加減は如何でしたか?」
「ああ、加代も来ていたのかい?奈都さん、検査の結果は異常無しでした。ですが長期の意識不明状態で筋力が衰えていますので、退院するにはリハビリが必要になります。」

加代を見て一瞬笑顔を見せたが、その後はカルテを見ながら淡々と説明している。
その間に看護師が車椅子から秋穂をベッドに移した。

「ごめんなさいね奈都。お母さん、もう少し帰れないみたい。頑張ってリハビリするわ。」
「秋穂さん無理しないで下さいね。奈都の事はウチの…父に任せて…」
「それは心配していないけれど…みつきにも申し訳ない事をしてしまったし…」

秋穂はベッドを起こして貰いながら細く溜め息を洩らす。賢司は看護士がベッドを起こして話しやすい体勢をとらせたのを確認すると

「皆さん積もる話しもあるでしょうが、30分程でお願いします。意識が回復なさったんですから、今後お話しはいくらでも出来るんですからね。」

優しく微笑って皆を見ると、看護士を促して立ち去った。

「秋穂さん…あの時の事を話して頂けますか?」

頼子が切り出すと、微妙に顔を曇らせて記憶を辿るように遠い目をしながら口を開く。

「あの時…私とみつきは、山籠りしていた頼良さんと頼子ちゃんを迎えに行く為に、奈都を連れて車を走らせていたわ…山道に差し掛かった時、道の脇に女性が踞っていたの…助手席にいたみつきは直ぐにその女性の様子を見に行ったわ。でも…助け起こそうとしたら、その女性がみつきの体に…」

その時の様子を思い浮かべたのだろう。苦し気に顔を歪めると、何度か大きく息をつく。

「みつきが倒れながら…私を見て…『逃げろ』って言ったの…でないと殺される…そう思ったわ…」