「紗季ちゃんの目標ってなんだい?」
「京都ではな~、成人式の頃に三十三間堂で通し矢をするんやけど、それに出たいんやわ~。ウチの流派が元祖やっていわれとるし、それを見て弓道に関心もってくれる人がおったらええやんな~?」
「ああ、そうなんだ~。素敵な目標だねぇ。私の流派も本来は向こうだったんだよ~。今は枝分かれしてしまっているけどね。」

鞍馬流といえば、鞍馬山が先ず思い浮かぶだろう。頼良は、末は頂点に立つ者として期待されていたが、さっさと権力争いから離脱して独立の道を選んだ。

「頼良さんやったら、頂点におっても良い指導者になれたやろな~。まぁ、今も良い人やけどな~。」
「そうかい?紗季ちゃんにそう言って貰えて嬉しいよ。頼子はそんな風に言ってくれないからねぇ。」
「当然だ。親父が鞍馬流の頂点にでもなったら、先行き不安で仕方ない。出前も来た事だし、明日に備えてさっさと寝るぞ。」

頼子の言葉で急に空腹を感じて、三人は黙々と食事を終え、汗を洗い流して早々に床に着いた―


翌日、用事が出来てしまった頼良を残し、頼子と紗季は病院に向かった。

「奈都。秋穂さんの具合はどうだ?」

着替えの袋を渡しながら聞くと

「ええ、問題なさそうよ。間もなく検査を終えて戻ってくるわ。」

奈都は寝ていないようで疲れが見えるが、母が意識を取り戻した事の方が嬉しいようで表情は明るい。

「頼子、紗季ちゃん。改めて感謝するわ。ありがとう。」

頭を下げる奈都に、紗季は手をブンブン横に振りながら

「ほんまにもう良いって!計画どおりにできひんかったし、最終的にはみつきさんと頼良さんに助けてもろたようなもんやし。ウチはそないに言うて貰うほど出来たもんと違うわ~。」

困ったように苦笑している。